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ホーム >> 【個人のお客様への調査内容】 紛争事例
※「千葉県宅地建物取引業協会 研修会テキスト」 から抜粋したものです。
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売買代金決済日の7日前に権利書がないことが分かる |
売買代金決算日の7日前に権利書がないことがわかり宅建業者の調査責任が問題となった事例
- 宅建者]は、売主Aの長男Bから、A所有土地の売却を仲介して欲しいとの依頼を受けた。
その際、長男Bからは「父親Aは高齢で、売却に関することは全て私が任されているからよろしくお願いしたい。」とのことであった。
- 宅建業者]は、買主Cを探し、平成18年12月15日、売買契約を締結した。
売主の署名は、売主Aから長男Bに対する委任状に基づきBが代理人として署名代理した。宅建業者]は、長男Bの言動を信用し、Aに面談することもしなかった。
- 決算日を一週間後に控えた19年1月15日、司法書士に対する委任もあるので権利書の確認を長男Bにしたところ、長男Bが持ってきたのは「所有権移転登記」の登記済書ではなく、「登記名義人の表示変更」の際の登記済証であり、「所有権移転登記」の登記済証、いわゆる権利証ではなかった。長男Bは、「登記済証と書いてあったので間違いないと思ったが、それ以外の登記済証はない。」とのことだった。
- 慌てた宅建業者]は知り合いの司法書士Yに相談したところ、「平成17年3月に施行された改正不動産登記法では、権利書を紛失した場合に用いられていた従来の保証書による登記申請制度は廃止され、『事前通知制度』か『資格者による本人確認制度』によらざるを得ないが、『事前通知制度』は、一括決済(すなわち、残代金支払いの際に、売主の設定した従来の抵当権を抹消し、買主が売買代金調達のために新たに抵当権を設定する手続きを同時にする場合)には使えないので、本件の場合も登記手続きの委任を受けた司法書士が行う『資格者による本人確認精度』によらざるを得ないでしょう。」ということであった。
- そこで、宅建業者]は司法書士Bに対し、『資格者による本人確認』(登記手続きの依頼を受けた司法書士が売主本人Aに面談して本人確認と売却の意思の確認を行うこと)を依頼し、司法書士Bは、早速売主Aと面談した。
ところが、売主Aは明らかに認知症で意思能力がないことは誰の目からも明らかであった。
したがって司法書士Bは「本人の売却意思の確認が出来ないので登記手続きはできない。もしやるという司法書士がいれば、懲役刑覚悟で不動産登記違反を敢えてする司法書士であり、あなたも加担すれば同罪になりますよ。」ということであった。
- 宅建業者]は、知り合いの弁護士Zに如何に対応すべきか相談したところ、弁護士Zは、「司法書士さんの言うことはもっともなことで、方法としては成年後見人が選任されるまで決算日を延期してもらう方法しかないと思いますが、いくつか問題があります。
一つは都内の場合、家庭裁判所に後見人の選定を申請しても、選任までに最低3〜4ヶ月はかかること、また、今回選任される後見人は事案の性質上弁護士になると思われますが、選任された後見人が売買契約を追認するかわからないことです。というのは、今回の場合、長男のBさんは父親Aさんの財産を生前に売却して売買代金の一人じめを目論んでいる可能性が高いからです。
よくあるケースですが、推定相続人(相続権を有している人)全員からの意見聴取をしてから判断することになるでしょうから。いずれにしても本件は無権代理人Bの責任と本人確認をせずにした仲介業者の調査義務違反が問われるケースとなるでしょう。」ということであった。
本事案に学ぶ
- 長男、長女が親の土地を売りに来た時は特に気をつけて
- 売主の本人確認と意思確認は宅建業者の調査義務の範囲内であり、このような調査義務違反に関連した事例で仲介業者の責任を認めたものとして次のような判例がある。
- 媒介業者が土地売買の媒介に当たって、売主の売却権限等の調査を怠ったため、媒介業者として損害賠償を命じられた事例(千葉地裁・判決平成12.11.30判例時報1749.96)
- 媒介業者が土地売買の媒介に当たって、代理人の代理権の確認を怠ったため、損害賠償を命じられた事例(東京地裁・判決昭和42.9.22判例タイムズ215.167)
- 登記申請の際に必要な登記済証とは、権利(所有権)取得の際に登記所から交付された登記済証(いわゆる権利証)であり、これ以外の表示登記、変更・更正登記、登記名義人の表示変更・更正登記等の際に交付を受けた登記済証は権利証とはならない。
しかし、一般の素人は登記済証と題されたものがあると権利証と思いこんでいることが多いので十分注意する必要がある。
- 新法が施行されると同時に、オンライン指定庁でなくても、権利証が提出できない場合の「保証書」の制度が廃止された。
この保証書制度に代るものとして、登記名義人である申請人が、登記済証を紛失して添付できない場合や、登記識別情報を失念あるいは失効させた等の理由により提供することができないときに、登記官が申請人の申請権限を確認するための方法として、新たに「事前通知制度」が設けられた。
所有権移転の場合だけでなく、抵当権設定の場合にも「事前通知制度」によることになった。
この制度では、登記官が登記名義人に対し、登記申請があった旨、および登記申請が間違いない場合にはその旨の申し出をすべき旨を記載した通知を行い、通知後一定期間内に、登記名義人から登記申請に間違いない旨の申し出があった場合に限り、登記がなされることになる。
実際には、現行の保証書の通知制度よりも厳格な内容になっている。すなわち、登記所から登記名義人本人が確実に受領することができる方法として、「本人限定受取郵便」を利用した事前通知を行い、通知後一定期間内(2〜3週間程度を予定)に登記名義人から登記申請に間違いない旨の申し出がないときは、申請が却下されることになる。
しかし、所有権移転登記手続きと抵当権の抹消手続きが複合的になされる一括決済の不動産取引の場合には、後で申請が却下される可能性がある「事前通知制度」は金融機関等にリスクを負わせることになり現実的ではないといわれており、実際には「資格者による本人確認制度」が利用されている。
この制度は、登記名義人である申請人が、登記済証を紛失して添付できない場合や、登記識別情報を失念あるいは失効させた等の理由により提供することができないときで、登記の申請の代理を業とすることができる者、すなわち司法書士・弁護士が代理する場合には、その代理人が、申請人が申請権限を有することを確認してその情報を提供し、その内容が適切であると認められれば、登記官は前記の「事前通知」を省略することができるというものである。これにより、権利証がなくても登記は直ちに審査されて完了することになる。
この制度では、資格者による面前確認が要請されるし、面識のない場合には、身分証明書の提示や権利取得経緯等の質問等により厳格な確認がなされることになっている。
遠隔地や外国に居住する登記義務者の場合には、複代理等の活用か事前通知制度で対応するほかない。また、法人の場合、特に大企業等の代表者の本人確認等は実際に行えるか困難な場合が想定されると指摘されているので、そのような場合には、内部権限の委譲証明等を活用することが検討されている。
なお、表示登記においても合筆登記の申請の場合などには、土地家屋調査士も同様に本人確認報告情報の提供ができることになっている。また、別の特則として「公証人による認証」も採用されている。
- 司法書士違反が問われた事例
大阪の無断所有権移転:登記法違反などの罪で、司法書士を起訴――地検 2005.0803 大阪朝刊25頁
大阪地検特捜部は2日、寝たきりの男性が所有する大阪府松原市の土地を、男性に無断で所有権移転する手続きをしたとして、同府泉佐野市の司法書士、T容疑者(55)と、男性の長男の同府羽曳野市、無職、K容疑者(47)を不動産登記法違反などの罪で起訴した。
共謀したとして逮捕された不動産会社代表取締役(56)は略式起訴され、罰金50万円の略式命令を受け納付。同社員(25)は起訴猶予処分となった。
起訴状によると、T、K、両被告は今年5月、男性の土地を勝手に売却しようと計画。男性は意思表示できる状態でないのに、面談して意思を確認したとする虚偽の内容を記載した「本人確認情報」の書類を作成し、移転登記の申請を大阪法務局美原出張所に提出した。
今年3月に改正された不動産登記法で手続きが簡略化されたことを悪用した。男性の土地は不動産会社に売却されていた。
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